学術や芸術、社会福祉など、様々な分野で功績のあった人をたたえる2020年秋の褒章の受章者が決まった。政府が2日付で発表した。受章者は775人(うち女性159人)と27団体。3日に発令される。
学術研究や芸術、文化などへの功労者に贈られる紫綬褒章は17人(同4人)。「うる星やつら」の作者で漫画家の高橋留美子さん(63)、俳優の中井貴一さん(59)、作家の多和田葉子さん(60)らが受章する。
社会奉仕活動を対象にした緑綬褒章は17人(同13人)と27団体。「スーパーボランティア」として知られる尾畠春夫さん(81)が30年以上にわたり、登山道整備や地域の清掃など環境美化に努めたとして受章する。
農業や商工業で模範となるような業績を残した人への黄綬褒章は270人(同20人)、公共の利益に尽力した人への藍綬褒章は471人(同122人)に贈られる。危険を顧みず人命救助にあたった人に贈られる紅綬褒章の受章者はいなかった。
「受章は、ご褒美かな」 脚本家・井上由美子さん
幼いころ、心臓病を患って入院した。病院のテレビでドラマを見ていると心が救われた。「ドラマは夢もドキドキもハラハラも、毎週平等に与えてくれました」。気がついたら、ドラマの世界を志していた。
大学卒業後、テレビ東京に入社した。3年半で辞め、シナリオ教室に通って1991年に脚本家デビューした。それ以来、NHK大河ドラマ「北条時宗」「白い巨塔」「14才の母」などの硬派から「昼顔」など恋愛ドラマまで幅広いテーマを手がけてきた。「社会派をやろうと思っているわけではないんです。今、生きている人たちの感情に寄り添いたいのです」
撮影現場に足を運ぶと、「自分もこの大きな所帯の一員なんだ」。誰かと一緒にモノづくりをすることの面白さが、30年近くにわたって脚本家の道を歩ませてくれた。「受章は、ドラマをずっと好きでい続けられたことへのご褒美かな」(大野択生)
「多様性を発展させたい」 演出家・鵜山仁さん
「舞台演出はひとりでは何もできない職業。スタッフ・キャストが集まる現場を代表していただけるのだと思う」。受章の知らせを受け、稽古場で接してきた人々の顔が浮かんだ。
所属する文学座で38年にわたって「グリークス」などの多彩な作品を手がけ、こまつ座では「父と暮せば」「人間合格」など幾多の井上ひさし戯曲に向き合った。過去に芸術監督も務めた新国立劇場の「リチャード二世」で先月、12年かけて全5作を上演したシェークスピア歴史劇シリーズが完結。「長年継続していくと作品が違う形で見えてくる」。慶応大では合唱に打ち込み、オペラの演出も多い。
コロナ禍の中で演出作の公演中止が相次ぎ、演劇の存在意義を改めて考えた。「一色に染まらず、違う物の見方や問題提起を打ち出せるかが勝負。多様性を発展させていければと思っています」(編集委員・藤谷浩二)
「師匠の気品、目指したい」 文楽人形遣い・吉田玉男さん
「まさか受章させて頂くことになるとは思っていませんでした。本当にうれしい」と顔をほころばす。
大阪府八尾市出身。中学生の時、近所に住む文楽の人形遣いから誘われて舞台を手伝ったのが、この道に進んだきっかけだ。1968年、名人・初代吉田玉男に入門。玉女(たまめ)を名乗る。
文楽人形は「主遣い」「左遣い」「足遣い」の3人が一体で動かす。司令塔役の主遣いになるまでには「足十年、左十年」とも言われる長い修業が必要だ。「遊びたい時分には、やめようかと思った時もありました。でも、先代は手取り足取り教えてくれて。本当にありがたいことだったと思います」
玉男の名前を継ぎ、今年で5年。「やっと、慣れてきたかなという感じです」と言う。「師匠は品格と気品を大事にしていました。僕も、そこを目指したいと思います」(増田愛子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル